伝統からの脱却
- roical
- 2020年5月28日
- 読了時間: 4分
更新日:2020年5月29日
こんにちは。
理学療法士の三上です。
新型コロナウイルスへの各国の対策の違いやそれに対する国民の反応に面白さを感じながら、その違いを生み出す様々な要因の一つである各国の文化が気になって仕方がない私です。
この文化・伝統というものは、リハビリテーションの世界でも根深いものを感じます。
1980年の著書『リハビリテーション(砂原茂一著)』のなかに、【マッサージ中心の伝統から脱却することが、現代的リハビリテーションの第一歩であるといってもいいすぎではないだろう。】と述べられています。
日本の理学療法の歴史はまだ浅く、1966年に日本初の理学療法士が誕生しています。
先に紹介した著書は1980年に出版されているため、理学療法士が誕生してからたった14年でこの知見にたどり着いていることに畏敬の念を抱かざるを得ません。
さて、この『マッサージ中心の伝統』が適切か否かについて考えみましょう。
まず運動器の疼痛部位としてダントツトップである背中下部(以下、腰痛)を例にして考えます。
●腰痛ガイドライン2012(日本整形外科学会)※現在は2019版が出版されています
CQ:15腰痛に代替療法は有効か?
グレードB 徒手療法は急性および慢性腰痛に対して他の保存的治療よりも効果があるとはいえない。
グレードⅠ マッサージは亜急性や慢性腰痛に対して他の保存的治療法よりも効果があるとはいえない。
●背部痛 理学療法診療ガイドライン
マッサージ 推奨グレードB エビデンスレベル2 亜急性から慢性の腰痛に対するマッサージは、いくつかの他の治療方法より疼痛と身体機能の改善に有効で、特に運動部との併用がこのましいとされている。しかし、亜急性腰痛に対するマッサージは経皮的電気刺激療法やコルセット装着と比較して、疼痛および身体機能の改善に差が見られないという報告もある。(一部、改変)
●慢性疼痛治療ガイドライン(ペインコンソーシアム)
CQ43:徒手療法は慢性疼痛治療として有効か?
マッサージ 2C(施行することを弱く推奨する)
一方、
慢性疼痛治療ガイドライン(ペインコンソーシアム)
CQ40:一般的な運動療法は慢性疼痛治療として有効か?
慢性腰痛:A1(施行することを強く推奨する)
さあ、いかがでしょうか?エビデンスレベルや推奨グレードといった親しみの少ない言葉も並んでいますが、感覚的にでもご理解いただけたでしょうか?結論、運動療法がコンセンサスなんです。
薬に置き換えてみましょう。例えば、『新薬』には皆さん期待しますよね?新しいからきっといいだろう、と。
それでは、運動療法は?
新しく適切だと判断された治療法はどうでしょう?
そうですね。根本的に違うんです。薬は飲むだけでいいかもしれませんが、運動療法は自ら動いて参加しなければなりません。手間がかかりますよね。
この違いは大いにあるでしょう。新型コロナウイルスに伴って【行動変容】という言葉も多く耳に入ったことでしょう。この【行動変容】はリハビリテーションのなかでも馴染み深く、難しさを日々感じています。人が変わっていくのは大変ですから…。
さて、腰痛に対する治療は伝統から脱却し新しい知見に基づいて行われることを紹介しました。
ここからは私感ですが、マッサージのように既に広まっていることは楽なんですよね。行う方も、受ける方も。伝統として既に広く広まっているため、実質的に説明不要で疑問も持たれにくい。そのためマッサージ導入までのコストがほぼかかりません。
ですが、既に広まっていることと現在考えられる適切なことは違います。
もうひとつ例を挙げてみましょう。
●慢性閉塞性肺疾患(COPD) 理学療法診療ガイドライン
胸郭可動域練習
推奨グレードC エビデンスレベル4a
胸郭可動性の増大を図ることで肺機能の改善や呼吸仕事量の減少、ひいては呼吸困難の軽減を期待して行われる手段である。欧米のプログラムではあまり取り入れられていないが、本邦では好んで適用されているという特徴がある。
面白いですよね。極論、効果よりも好みで使われることがある。本邦の治療者は触りたがる傾向があるのかもしれない。
これにおいても本邦の伝統的な側面を感じます。
本邦では、健康寿命と平均寿命の乖離が叫ばれています。健康寿命を伸ばし、皆さんが1日でも長く自分らしく生きていくためには、今までの慣れ親しんだ伝統から脱却し、常に正しい情報を受け入れていくことが必要なのかもしれませんね。
良いものは良い、悪いものは悪い
是々非々で生きていきたいものです。
少し勇気を出して、知らないことでも調べてみましょう。聞いてみましょう。
世界は簡単に広がります。
しかし、すべての人を納得させることは難しい。






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